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プレス型保全の仕事はコンピューターで置き換えられるか? [職人の仕事]

             なぜあなたのビジネスは失敗に終わったか?

自動車工場のプレス・ショップはボデーのパネルを一枚一枚打ちぬき成形して行く大事な工程である。

自動車の値段はエンジン半分、ボデー半分といわれる。

最近のプレス・ショップは自動化が進み、大型のトランスファー・プレスが1台で4工程をすべてやってしまう。

自動化されたショップには今なお型保全というチームが存在する。

30トンから50トンもある鋳鉄の型に材料のスチールシートを載せ、4000トンもの力でドーンと打つ。

刃こぼれ、摩耗は日常茶飯事、ときに型が大破することがある。型のメンテを日常的にやる仕事をしている
人たちが型保全のチームだ。目立たない裏方の仕事だが、彼らなくしては車はできない。

アーク溶接で肉盛りをした後、サンダーを持って削る。それの繰り返し。刃こぼれや摩耗変形した刃を復元する。ミクロンの差で材料がワレ、しわ、かじりが出たりする。4・5メートルもある大きな型の上に乗り、冷たい
鋳鉄に時には尻を据え、数時間も削り続ける。根気のいる仕事である。

あるとき、生産ラインのメンバーの不注意でレンチを型の上に置き忘れたままドカンと打ってしまった。
型は5つに大破した。一つしかない型を直さなければラインが停まってしまい車ができなくなる。

この時ばかりは日ごろ無視されていた型保全が全員の頼りにされた。日本から代わりの型を送って貰うのに
どんなに急いでも数週間から一カ月は掛かる。応急手当てでいいから、とにかく型を使えるよう直してほしい。

工場長以下の必死の懇願だった。普通の腕では、これだけばらばらになった型を直せるものではない。
それなりの経験を積んだ腕のいい職人さんが2日か3日徹夜で取り組まなくては直せるものではない。

この時、腕まくりをして「ようし、おれがやったる!」と名乗り出たのはベテランの N さんである。
N さんが48時間不眠不休で数十箱の溶接棒を使い切り、ばらばらだった型をくっつけ合わせてどうにか使えるようにしてくれたお陰で、工場は停まらずにすんだ。

この直後、工場のフランス人の主にエンジニアから議論が持ち上がった。最新の技術で誇るこの工場にプレスの型保全だけが、いまだに職人さんの腕を頼りにしているのはおかしい。コンピューターで型保全などは出来る筈だ。

新しい型を3次元の読みとり装置のついた加工機械に読み取らせ記憶させておいて、型が壊れたり変形した時に鋳物の塊を機械に入れ削らせれば、新しい型と同じ物ができる。なにも長い年月をかけて職人さんを養成する必要もない。

一見もっともらしい議論で、いかにもフランス人の合理的な頭が考えそうなことだ。
だが、壊れた型を直した Nさんによれば、まったく型についても、型保全の仕事も理解していない空論だと一言で片づけてしまった。

使いこなされた型は新品の状態に戻せば良いものではないらしいのだ。プレスのスピード、材料の質、状態、型の状態、製作時の温度、さまざまなパラメーターが重なり合って製品の出来具合を決めるので、コンピューターが記憶通り新品の型を復元しても、不具合は直らない。長年の経験を積んだ職人の感性と腕に機械はかなわない、というのが N さんの意見だった。

ちなみに職人さんは手のひらを不具合のあるパネルに当てミクロン単位で凹凸を感知してしまう。

            あなたのやり方は間違っている!
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